在宅酸素療法(HOT)をしても生活の質は下げない

慢性呼吸不全などにより在宅酸素療法(HOT)を受けている方は、身体的・精神的・物理的理由から制限された生活を送らざるを得ないと思います。慢性呼吸不全は徐々に進行する不可逆性の病気であり、病気と上手に付き合いながら生活を送ることが大切です。

そのためにある程度の屋内活動を維持し自立した生活が送れること、外出や非日常を楽しむ機会があることはQOL(生活の質)を下げないために重要です。

在宅酸素療養(HOT)とは

酸素療法は酸素を体内に取り込めない人にカニューレやマスクから酸素供給し、低酸素を改善するために行われます。

その中でも在宅酸素療法(HOT)は肺や心臓に高度の障害があり、継続的に酸素供給が必要な方に行われます。具体的には慢性呼吸不全(慢性閉塞性肺疾患、肺気腫、間質性肺炎、肺線維症など)、肺高血圧症、チアノーゼ型先天性心疾患が対象になります。これらの病気でも必ずしも適応になるのではなく、身体状態や療養上の管理状況を評価の上で判断されます。

身体上の評価とは動脈酸素分圧(Pao2)、経皮的酸素分圧(Spo2)などを測定し低酸素症状を認める人、またその中でCO2の蓄積傾向などを検査し、どのくらいの酸素投与が必要かを判断します。
利用者や介護者が酸素供給機器の取り扱いに理解があるか、定期受診できるかなども判断材料の一つになります。

酸素療法をする上での体調管理

酸素量の指示を守る

低酸素だからといって自己判断で酸素量を調整してはいけません。

Ⅱ型呼吸不全(主に慢性閉塞性肺疾患、喘息)の場合は、高濃度の酸素を取り込んだ場合に十分に二酸化炭素を排出することができず、「Co2ナルコーシス」という状態に陥るリスクが高まります。この状態になると意識障害(昏睡・傾眠)や呼吸抑制(自発呼吸の低下)を引き起こし、早急に呼吸補助(挿管や人工呼吸)をしなければさらに重篤な状態に陥ります。
かといって酸素量が不十分であれば低酸素症状に陥ります。

このため酸素量は定期受診により適正な酸素調整をしたうえで、医師の指示をきちんと守る必要があります。また適正な酸素量は活動状況にも左右されます。活動するために一時的に上げていい酸素量はどの程度か、息苦しくなった時にどの程度まで酸素を増やしていいかという指示も医師から受ける必要があります。

自覚症状の管理と活動量の調整

慢性呼吸不全は少しずつ進行する病気であるため、軽い低酸素状態では自覚症状を感じないことがあります。症状がないからといって急に慣れない活動をするのは禁物です。
どの程度なら息が乱れることなく活動できるのかを把握し、息が乱れたら深呼吸をして整える、低酸素症状(頻脈や意識がもうろうとするなど)が現れたら安静にするなど、自覚症状に応じた対応をすることが大切です。

日常生活上の工夫

病状によっては些細な活動が呼吸苦の原因になることがあります。
排便時に息を止めて力んだり、会話や食事などの生活上の些細な行動でさえも呼吸困難を生じる場合もあります。あまり気にしすぎるのはよくありませんが、無理をしないこと、負担を軽減できる状況・環境を整えるようにしましょう。
たとえば動線に椅子などを置いて休憩できるようにする、シャワー浴や家事などをする時は座りながら行う、着脱しやすい前開きの衣服を選ぶことなど、ちょっと方法を変えるだけで負担を抑えることができます。

不安の緩和

症状が強くなると不安や恐怖を感じるのは無理もありません。しかしそのような精神状態がパニックを引き起こし、さらに呼吸促拍や動悸などにつながります。
不安で苦しくなる時は、まず「長く吸って、長く吐く」呼吸を繰り返しましょう。不安に意識が向くとさらに悪循環になりやすいため、呼吸に意識を向けゆっくり数えながら呼吸をしてみてください。

慢性呼吸不全は徐々に進行はしますが、合併症の徴候や生活上の影響など要因となる心当りがない場合、突発的に呼吸苦を引き起こすとは考えにくいと思います。(予兆や原因に本人が気づいていない場合もありますが)

パルスオキシメータ―があれば酸素飽和度を測定すると、数値的な根拠が安心の材料になるかもしれません。

日常で不安が生じることがが多いならば、医師に相談した上で抗不安薬などの検討してもらうのも対策のひとつです。

緊急連絡のポイント

・息切れが強い
・チアノーゼがある
・咳や痰が増えた
・むくみが増えた
・動悸が激しい
・喘鳴(ゼイゼイ)がある
・痰が黄色い
・体重が増加
・尿量減少

このような症状が急激に出現した場合は往診医や訪問看護師に報告が必要です。訪問診療を利用していない場合は、一刻も早く医療機関を受診する必要があります。

酸素投与機器の取り扱い

酸素投与に必要な準備

■ 酸素濃縮器・酸素流量計
■ 酸素チューブ(ある程度行動できる人は、活動や自立を妨げないよう長さに余裕のある延長チューブが必要。)
■ 酸素マスク・鼻腔カヌラ
■ 精製水  
■ 携帯ボンベ 

機器類は業者からリースで借り入れし、利用料は保険適用します。

火気・高温厳禁

酸素濃縮器は火の気のない場所に設置します。高濃度の酸素は火気により火災を招くことがあります。火元から酸素まで2m以上は距離を置いて設置しましょう。
ストーブ、電気カーペット、電気毛布、たばこ、ガスコンロなどを近づけないようにしましょう。周囲の人も火気の取り扱いに配慮できると安心です。

携帯酸素ボンベ

一時的な外出や停電のときに使用します。外出の頻度や酸素投与量に応じてボンベの大きさ(ガス容量)を選ぶといいでしょう。持ち運ぶのは大変なので、リュック式やカート式、車椅子に積めるタイプなど適した収納器具を選びましょう。

酸素機器の清潔

・濃縮器のフィルターは定期的(週に1回と説明しているものが多い)に水洗いし乾燥させる
・加湿器は数日に1回は水洗い
・カニューレは数日に1回、または汚染時に水洗い(痰や咳が多いときはこまめに洗う)

酸素療法を受けるための費用

慢性閉塞性肺疾患をはじめ、在宅酸素療法が必要な場合はおおむね医療保険が適応になります。
医療保険の負担割合は年齢や所得に応じて1~3割です。

在宅酸素療法では酸素濃縮器やボンベ等の機器類の使用料が月に約7000~30000円(負担割合により差がある)+疾患に対する診察・治療費が発生します。
一定額を超えた場合は高額医療制度が適用します。(高額医療制度については下記リンク参照)

また呼吸機能障害の程度によっては身体障害者手帳の適用となります。この場合は医療保険における1~3割負担からさらに減額できます。(身体障害者手帳の階級や所得に応じて対象範囲や助成の内容が異なるため、誰でも減額となるわけではありません。)
身体障害者手帳の助成については住んでいる地域により異なります。身体障害者手帳に関する問い合わせ・申請は居住地区の障害福祉窓口になります。

リンク:高額医療制度について

外出時の確認

■ 携帯酸素ボンベの必要量を確認する
外出先で酸素がなくならないよう、酸素ボンベの量を確認しておくことが大切です。何時間くらいの外出になるのか、酸素投与量(労作時の投与量)を把握したうえで酸素機器業者と事前打ち合わせが必要です。

■ 旅行や遠出をする場合
担当医師へ相談し、旅行に行ける状態か、飛行機に乗れるのかなどを確認しましょう。必要に応じて訪問看護(保険外)や民間の旅行支援サービスや利用することができますが、医師の意見書など事前調整が必要ですので早めに計画を立てましょう。また旅行先では緊急時に受診できる病院の確認も必須です。

■ 障害者手帳の助成
居住地域により異なりますが、映画館や美術館などの割引、公共交通機関の割引を受けることができます。

■ 乗り物への酸素ボンベの持ち込み
飛行機、バス、電車、タクシーには酸素ボンベを持ち込むことができます。飛行機に乗る際は事前申請が必要です。

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